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コラム

認知症全般知識に役立つコラム

認知症学会専門医 占部 新治先生による、「認知症全般知識に役立つコラム」です。第1〜第4 金曜更新!

占部先生のプロフィール

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第8章 認知症のこころ 認知症患者のこころはどのように?3項・治療を進めるための関係作り

誤った認知と周囲の人々

認知機能低下による、誤った認知は、周囲のヒトと違った思い込みや感情を抱いてしまいがちです。
それは、周囲の方々の反応が自分の予期せぬ方向に動いてしまうことになります。このため、周囲の方々の反応を見て「自分が考えたことと違う」と、怒りの感情を持たれることが多くあります。
自分が考えていたイメージと違った場合、先ず「どうしたんや!」と反応されます。即ち、「違う事=自分に反対している」という即時的思い込みが生まれるのです。

認知症では、一呼吸おいて状況や雰囲気、話しの流れから思考することは難しくなります。
こういうパターンを周囲の人々は覚えておいていただきたいのです。そうでないと、増々本人を誤解して悪い方向に状況が流れていきます。

正すことより味方になること

このことが理解されていますと、周囲の人々は話の論理でなく、先ず「ゴメンゴメン」と謝るのです。
つまり、話の筋道を通すのではないという事です。
「自分は間違った事を言ってないし、これは相手を正さないといけない。」などという事は、ここでは横に置いておくことがまずすべき事柄です。

周りのヒトは、今までの生活から間違ったことは、「正さないといけない。自分は間違ったことを見逃してはいけない。自分は正しいのだ。」と、思われるでしょうが、これが認知症の人からすると、解せない事なのです。
その喰い違いから、興奮や怒り、暴言、暴力が生まれていくのです。
訂正、学習は実は困難な作業なのです。これまでの状況の流れは記憶に残っていなくて、その場での起こっている事のみによって動く感情反応が全てで、言動が生まれるのです。
これを理解するのが難しく、分かっていてもツイツイ反論したくなります。そうすると取り返しのつかない感情の行き違いが生まれます。こうなるとお互いに売り言葉に買い言葉で興奮、怒り、攻撃性へとエスカレートしていきます。

こうした言い争い的出来事の経時的説明は、認知症でない方の説明が分かり易く、筋が通っているために認知症の方が悪者で、そしりを受けます。
非認知症者の言葉は柔らかくても「それは、ダメだよ」に繋がり、認知症の方は孤立無援を味わいます。たとえ間違っていても味方になってくれるヒトが必要なのです。そうしないと孤立から暴言、暴力へと後戻りできない状況になります。

迷子状態の世界の中の灯台に

言い争い的状態になると、認知症に伴う心理行動異常(BPSD)であると判断され、治療が必要であり、場合によっては入院、入所となって行きます。
入院や入所されますと、増々誰も知った人や味方が居ない世界に住むことになるのです。こうなると、精神状態は一気に、混乱に陥ります。
もう訳が分からない環境にいて、いう事が分かってもらえない、話が通じない世界に迷い込んでしまします。
分らない世界での迷子状態です。

この状態から、治療を進めるには、先ず関係作りです。
しかし、認知機能、記憶機能、学習機能などが障害を起こして、新たな生活・人的環境作りは何から取り掛かれば、土台が作れるのでしょう?

まずは、根気よく記憶に残ることからスタートします。
毎日、同じ時間に会って挨拶をします。同じ時間は時計での時間でなく、生活の同じ出来事に合わせることです。
たとえば、朝ご飯を食べる時やおやつの時といった出来事に合わせて挨拶をします。それで結びつく手掛かりが作り易くなります。
いわゆる顔なじみになっていくことのスタートです。このスタート作りでは、印象に残る形態、ことば、パフォーマンスを考えます。
一つだけでは困難です、複合した情報でいつも同じ効果を産み出すことがポイントとなります。
いわゆる鉄板ネタのようなものを作り上げます。
これが、迷子状態の世界の中で、認知症の方にとっては灯台になります。キーパーソンとなるように努力しましょう。新しい世界での刷り込みを作っていきます。

占部 新治(うらべ しんじ)

経歴
1976年
北海道大学 医学部 医学科卒業
1980年
北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
1980年
北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
1981年
北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
1995年
札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
1999年
札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
2001年
札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
2007年
北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
2011年
京都 三幸会 北山病院 副院長
2013年
京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
専攻領域
精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
主な著訳書
日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
主な著書
臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
所属学会
  • 精神神経学会 専門医、専門指導医
  • 老年精神医学会専門医、専門指導医
  • 認知症学会専門医、指導医
  • リハビリテーション医学会 臨床認定医

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