第8章 認知症のこころ 認知症患者のこころはどのように?1項・症状をうまく表現できない戸惑い
脳の病気は症状の想像がつかない
認知症を患った方は、世の中がどのように見え、どのようにのか、どのような心持になり、どのように日々の暮らしを考え、どのように生活していかれるのでしょうか。
これを考えるのは、認知症患者様への対応と治療の点で、非常に重要ですが大変難しい課題です。
一人ひとり個性が違い、考え方や価値観も違います。それを基礎にして認知症症状の出現に際し、各自どのように症状を感じ、どう表現、反応、活動されるのかは本当に様々です。いわゆる病気の症状で、身体疾患ですとおおよそ疾患名―症状が決まっていて、診断がしっかりつきますし、そのレベルも評価できます。
ですが、脳の病気となりますと、その症状は想像がつかないように思えます。第一、脳のどこが障害されたのか、どの程度障害されたかは分りません。脳画像が進んでも、脳機能が正常に働いている脳領域はどこまでか?に答えることは困難です。機能のマップは描ききれません。また、脳の領域とそこで営まれる脳機能は十分に解明されていません。
ほとんど何もわかっていない脳機能、脳機能の機序なので、症状出現の責任病巣を断定するのは難しく、これまでの症例から「たぶん」「おおよそ」での推定しかできないでしょう。
症状をうまく表現できない
認知症で経験された事象は、表現し伝えることが難しいため、みなさん何とも言い難い表情をされておられます。
患者様ご自身が感じている違和感、言動の困難、世界像や気持を、うまく表現しようにも言葉が見当たらないのです。
表現言語に苦慮され、不安に苛まれておられるに違いありません。
なにが我が身に起こったのだろうという戸惑い、不愉快さ、不満、恐怖、驚きなどが多いようです。
認知症と心の働き
心の働きも脳機能であるため、その機能さえ神経細胞の変性の影響を受けていないとは言い切れませんし、おそらく影響を受けていくと考えられます。
それは、どのような影響を受け、どのように変化するのでしょうか。その研究はまだまだです。
心の働きに、認知機能、記憶機能、見当識機能、ワーキングメモリー等々が関わっていれば、それらの情報が変化していれば、心の働きが正常であっても導き出される心の動きは影響を受けます。
そのため、「心の働き」は認知症でどのように変化していくのかは、研究が困難であり、現時点では「認知症による心理、行動の異常(BPSD)」として見ていくのが限界と考えます。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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