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コラム

認知症全般知識に役立つコラム

認知症学会専門医 占部 新治先生による、「認知症全般知識に役立つコラム」です。第1〜第4 金曜更新!

占部先生のプロフィール

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第7章 薬の話 認知症症状に効果があると認可されている薬4項・脳機能に関わる薬物療法のこれから

根本的治療薬の開発のために

1項〜4項で、抗認知症薬の中のアルツハイマー型認知症に使えるお薬を紹介してまいりました。しかし、これらは、根本から治療するお薬ではありません(欧州ではこれらを認知症に対して効果があると認めていない国もあります)ので、病気は進行していきます。

本当の意味での治療薬はこれからの開発を待たなくてはなりません。その為に世界中の研究者が日夜努力されています。数年前までは、毎年、根本的治療薬候補のお薬が200種類ほど上がっていましたが、ここ2-3年は下火になっています。
根本的アルツハイマー型認知症の治療薬は、幾度も臨床試験、いわゆるヒトを対象とした治験にまで行きましたが、効果不明や副作用で脱落して、多くの製薬メーカーが抗認知症薬の開発撤退を決めてしまいました。
特に、世界で一番大きな製薬会社が「研究開発費が莫大になり続けられない」という理由で撤退を発表した時には、治療の将来に対する希望が消えかかって、とてもやりきれない気分になりました。
その後、非薬物療法が盛んに学会で発表されるようになりましたが、根本的治療薬については、病気の本体の研究に立ち戻って、再度挑戦が行われアルツハイマー病そのものの再研究が進められています。

心理行動異常(BPSD)への対応

認知症を来す、神経細胞変性疾患の治療は足踏みを続けていますが、認知症治療で解決が待たれているのは、もう一つあります。
それは、認知症によって生じる心理行動異常(BPSD)の治療です。
認知症対応で一番大変なのがこの症状なのです。患者様の対応の困難さ(危険回避、逸脱行動対処への24時間にわたる見守りと介入)から、入院治療を選ばざるを得ない状況になっています。
さらに、入院後の治療方法として、薬剤を使った症状改善を図らないと、マンパワーの対応のみでは、当事者の介護者や看護者が疲弊して、彼らの健康に大きな問題が生じてしまいます。彼らの心理的疲労は計り知れなく、鬱の発症リスクが数倍に高くなり、鬱を発症すると認知症発症のリスクが高まることが、多く報告されています。

このBPSDへの対応、治療は患者様の尊厳や人権を考えると、とっても難しい課題を含んでいます。国際学会でもどう対応するか、いろいろ研究されていますが、患者さまと介護者の双方が良かったと思える方法がありません。薬物療法で、興奮や怒り、逸脱行動に立ち向かうなどできませんし、やれば患者様が活動性をなくし、めまいやフラツキが生じて転倒骨折、寝たきりになられ、嚥下障害や沈下性肺炎や褥瘡も出現して死期を早めてしまいます。BPSDをどういう方法で改善するかは、まだ良い治療方法が出てきていません。

認知症の薬物療法と倫理

お薬の話は、大変恐縮ですが、まだまだ未開の領域で、症状改善や根本的な治療薬はまだこれからの開発を待つ段階でこれからが期待されます。

それは、脳機能についての働きを持つことから、ヒトの心理や行動に関わるため人権問題が必ず絡んできます。脳機能に関わる薬物療法では「ヒトを、人格を変える」そうした個性を奪い取る治療薬にもなりかねず、恐ろしいヒト制御の薬開発となりかねません。
そのため、開発されたお薬はどのような効果を持つ薬なのかに対して、倫理的な面が議論されると考えます。

大きな視野と心を持ち、お互いを受け入れていくそうした社会は、薬では生まれないと思います。認知症治療で、我々は人類に問いかけられた大きな課題に直面しており、その根本的立ち位置と方向性が認知症治療の原点になると考えます。

占部 新治(うらべ しんじ)

経歴
1976年
北海道大学 医学部 医学科卒業
1980年
北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
1980年
北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
1981年
北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
1995年
札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
1999年
札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
2001年
札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
2007年
北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
2011年
京都 三幸会 北山病院 副院長
2013年
京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
専攻領域
精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
主な著訳書
日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
主な著書
臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
所属学会
  • 精神神経学会 専門医、専門指導医
  • 老年精神医学会専門医、専門指導医
  • 認知症学会専門医、指導医
  • リハビリテーション医学会 臨床認定医

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