第7章 薬の話 認知症症状に効果があると認可されている薬1項・塩酸ドネぺジル・アリセプト
認知症症状の遅延をもたらす4つの薬
認知症の大部分を占める神経細胞の変性によるアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症などの疾患において薬は現段階では、難しい問題です。
ご存知のように、認知症に効果的な根本的治療のお薬は残念ながら、今のところありません。根本的治療薬が無いことは、医療者にとってツライ、厳しいことです。認知症症状を改善する効果のある薬もなく、言わば丸腰で敵と戦えと言うようなもので、患者様とご家族に治療の進め方をどう説明するかが悩ましくて、歯切れの悪いことしか言えません。
現在認められているのは、アルツハイマー型認知症症状の遅延をもたらす①塩酸ドネペジル・アリセプトで、他に②ガランタミン・レミニール、③リバスチグミン・リバスタッチ、④メマンチン塩酸塩・メマリーがあります。
この章では、これらのお薬について先ずお話しします。
①塩酸ドネぺジル・アリセプト
塩酸ドネぺジル・アリセプトは、最初に誕生したお薬です。
認知症症状に効果があると認可されました、日本で誕生したお薬です。
このお薬は②ガランタミンと③リバスチングミンと同じ仲間で、お薬が働きかける脳の部位が似ています。脳の神経細胞が次の神経細胞に接合する場所(シナプスと呼ばれています)で、情報を伝える伝達物質のアセチルコリンの働きを長くして情報伝達を助ける作業をするのが共通点です。その作用機序からみますと、アセチルコリンの分解酵素を阻害することでアセチルコリンの働きを長く延ばすことから、アセチルコリン分解酵素阻害薬とまとめて呼ばれています。その代表的な薬剤で、一番早くに製品化されてアルツハイマー型認知症の軽度、中等度、重度すべてのレベルで推奨度Aです。
薬の形状とお勧めの飲み方
薬の形態は、1)錠剤と2)細粒、3)口に含むとすぐ溶けるタイプの錠剤「D錠」、4)ゼリー状、5)粉のドライシロップで液体に融けるタイプなどがあり、患者さんの薬に対する飲み方から選択します。
薬と認識して飲まれる場合は、錠剤がこれまでの人生経験からクスリと認識し易く飲まれます。
認知症が進んだ場合や薬が嫌な方は、錠剤だと吐き出されることがよくあります。こういう場合は細粒にすると飲み易くなります。
薬をこぼす方にはオブラートでくるんで飲んでもらいます。オブラートが口の中の彼方此方にくっ付くのを嫌がる方には、口に含むとすぐに溶けるD錠タイプがお勧めです。
固形物は違和感から飲み込みにくいと思われる方には、ゼリー状などがヨーグルトや半固形状のオヤツと似ていて嚥下し易いでしょう。
固形やクスリクスリした粉なども敬遠される場合は、ドライシロップでお湯に溶いて飲んで頂き、また色々の形状した他の食品に混ぜて飲んで頂くこともお勧めです。
最初は3㎎から開始して、2週間して5㎎で維持します。認知症が重度になると10㎎に増やします。
服用は1日1回で、多くは朝食後に服用します。
ただ、アセチルコリンを伝達物質とする全てのシナプスに働きかけるため、感情やいろいろの行動が刺激されて過活動を引き起こすことがあり、逆に対応が困る場合がみられることがあり、服薬を中止することがあります。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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