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コラム

現役ケアマネのリレーコラム【第10回】

ケアマネージャーのホンネを毎月更新!

まごころステーションすくらむ
大阪府
村瀬崇人さん

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「新しいケアマネジメント」 介護支援専門員のオンライン活動によるパンデミック下の地域援助

対人援助職の優れた実践は、地域のネットワーク、人のつながりの中でこそ成立する

僕がソーシャルワーカーあるいは介護支援専門員として大阪市東淀川区で仕事をするようになったのは、もう12年も前の話だ。それだけの歳月があれば、この地域に暮らし活動する色々な立場の人たちとも浅からぬご縁が出来て、自分自身もまた、そんなつながりのなかで支えられ、育てられてきた一人の専門職であったと自覚するようになる。そして、いつしか僕はこれが僕の信念であると、口癖のように言うようになっていた。

だが、新型コロナウイルスの流行という危機は、そんな僕の「信念」を大いに動揺させた。当たり前の日常が変わっていく。先が見えない不安感が社会を覆っていくような状況のなかで、多くの人が「ソーシャルディスタンス」という言葉を知り、互いを守るためにそれが重要であると生活のなかで用いるようになった。僕たちは変化を受け入れる必要があった。

まず、集まりをもって活動することが多かった専門職間や多職種、地域のネットワークはその活動を休止せざるを得なかった。予定されていた研修や会議は続々と中止、延期の決定をし、次の予定はもう立たなかった。

何らかの持病を抱えることが多い利用者やその家族は非常に敏感に反応したと思う。人が集まるところに行くのは避けたい、誰かが家に来るのも不安だ、なかには、介護支援専門員や看護師といった専門職の訪問支援を受けるのも控えたいと訴える人もいた。

利用者やご家族、関係者への対応に追われ、衛生用品の不足に困惑し、一日ごとに深刻さを増す報道に接し、そしていよいよ「緊急事態宣言」が発令されるのを目の当たりにする頃、僕はふと、随分と長い間、みんなの顔を見ていないことを思い出した。そして、ソーシャルディスタンスは心の距離を空けろという意味ではない、ならば、物理的な距離が出来ても人と人とのつながりを保つ取り組みこそ、利用者と地域を守ることになると思い至り、僕は一人、「口癖」をつぶやいた。「対人援助職の優れた実践は」と。

コロナ禍でも人とのつながりを保つ取り組み

まずは、利用者、その家族への対応から取り掛かる。「ごめん、今は訪問してもらうと困る」と言う人がいたので、ビデオ通話ができるアプリがあるからちょっと使ってみないかと促して、訪問看護師と一緒に話をする。そこには、普段なら何かあればすぐに訪問に行く見慣れた部屋があり、利用者やその家族の笑顔が見えた。心身機能の簡単な評価だって可能だ。

同じように困っている仲間は少なくなかったので、このようなものがあるから一緒にやってみようと紹介する。なにぶん、みんな慣れない仕組みだ。上手くつながらない、音声が届かない、画面のどこをどう触ればいいのかわからない、とバタバタしながらもウェブミーティングというものを初めて知っていく。これならみんなの顔が見えるね、何だか随分と久しぶりな気がするね、と仲間たちの顔が見えて、声が聞こえる。

ウェブ研修ができないかとはすぐに思い至った。特に、新型コロナウイルスの流行については様々な情報や行政からの通知も出されているが、みんなが整理して理解できるようにするためには情報の共有や現場の実態に即しての検討のプロセスが重要だ。オンラインに対応してもらえそうな講師には心当たりがあったので早速依頼をかけて調整する。壇上でマイクを持った姿は見慣れている「先生」が画面の中にちょこんと収まっている身近さがうれしい誤算で、ともすれば普段のセミナーよりも対話は発展したように思う。

多職種連携にも使える。地域の医介連携の要となるドクターに声をかける。連休中はずっと家にいる、ステイホームだって先生は言っていた。ならば、先生、オンラインでみんなを集めよう、きっとみんな先生の顔を見たがっている、と普段着のドクターをウェブミーティングに迎え、難局を乗り越えるために多職種が意見を交わし、知恵を出し合った。

進取の意欲が大きい訪問看護師やセラピストはどんどん巻き込む。今日は3ケースについてオンラインで「サービス担当者会議」をやろう。年齢層が高い介護職もこちらが一手間、二手間かけることを厭わなければ十分に参加できるから大丈夫。それに時間に余裕があるだけ、普段より話が深めやすい側面があるのはセミナーの時と同じだ、と。

僕たちの地域でのウェブミーティングは回数を重ね、内容も深まっていく。地域のドクターが感染症対策についてヘルパーに直接教示してくださるような機会もつくれた。また、他地域でも同じような動きが出てきているとも聞くようになった。僕は、思いがつながり、輪が広がっているのを知る。

新しいケアマネジメント

定期的にビデオ通話で状況を聞くことになっている利用者家族が言う。「そのうちにこれが当たり前になるんじゃないか?サービスを受けている側にとってもメリットがある」と。こういう取り組みも含めて、新しいケアマネジメント、つまり「ケアマネジメント2.0」として提唱する人もいるし僕も大いに賛同するところだ、と答えた。

このようにして僕たちの地域は障害物の多いトンネルを手探りで進むような1か月を何とか乗り越えてきた。感染拡大の状況は改善傾向にあると報道されるようになり少しの安堵感は覚えるものの、危機が完全に去ったとはおそらく誰も思っていない。みんなむしろ気を引き締めている。第二波、第三波があるのだとしたら、その時こそみんなで力を出し切らないといけないと感じている。不安も大いにある。

でも、僕は、僕たちの地域は、この間に備えをしてきた。ウェブセミナーでは感染拡大防止をしながらケアを継続する基本的な考え方や実践法を学び、感染防護用品の簡易な代替品の調達や作成法を知った。地域の多職種ネットワークは現場の支援者とその先にいる地域に暮らす人たちを支える力をオンラインで発揮して、専門的で実践的な知見を分かりやすく示すようにした。最前線に立つ介護職員の声に耳を傾けて方針に反映しようという気運も高まってきた。みんなが1か月前とは違うと言えるだけの力をつけてきた。

オンラインを駆使して、利用者の暮らしを守る。それが僕たちの「新しい日常」なのかもしれない。それを察知して、動揺した信念はようやく落ち着きを取り戻し、試練を超えてより確固たるものとなる。人のつながりはある。ならば頑張れる。僕は、そう確信した。

福祉用具の活用

ところで、今回のパンデミック下の中で、介護支援専門員として改めてその重要性に気づかされたことがある。それは、福祉用具の活用だ。

思うようにヘルパー等を訪問させられない、あるいは通所介護を含め多くの人が集まる場所に利用者を安易に連れていけない、少なくとも、通常のケアマネジメントに比べて、人と人との接触を伴う支援を行う際には、より一層の注意が必要になった。支援者間での話であればICTを用いて解決できる部分も多々あったが、特に高齢で独居の利用者となると往々にしてそういうわけにもいかなかった。この時、ケースによって大きな違いとなったのがケアマネジメントにおいて環境整備の視点から必要な支援がしっかり反映されていたかどうかであった。

例えば、普段から転倒対策や外出支援などの視点から福祉用具の活用を積極的に進められていたかどうか、身体介助や家事の援助などの専門職による直接的な援助に頼りすぎず環境整備などを通じてできるだけ利用者本人の行動によって日常生活上の様々なニーズを満たしうるように支援ができていたか、あるいは、通所介護施設や短期入所施設などの施設面のハードの活用に依存しすぎず、本人の自宅にもともとある環境や機能を上手に活用して、本人が自宅で過ごしやすい状況を整えられていたかどうかなど、自立支援の視点から重要とされるケアマネジメントの基本的な考え方がしっかりと実践に反映されているかどうかが、緊急事態下において改めて問われたとも言える。

幸い多くの利用者は、シャワーチェアやバスグリップ等を活用した簡易な入浴は注意をしながら行い、屋内の動線をしっかり支える手すりを用いてトイレ動作を行い、運動不足になってはいけないと歩行器を用いて近隣のスーパー等まで、人が少ない時間帯を狙って買い物をしにいってくれた。

「自分のことやから自分で気をつけないと」「大丈夫、元気でやってるよ」と電話越しに明るい声を聞かせてくれる多くの利用者の声を僕はとても嬉しく聞くとともに、僕たちが直接行くわけにもいかないその場所で利用者の暮らしを確実に支えてくれている「環境」による支援のことを、とても頼もしく感じた。

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