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コラム

現役ケアマネのリレーコラム【第3回】

ケアマネージャーのホンネを毎月更新!

認知症大佐さん

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三つの認知症対策について

コラム内容の紹介

小規模多機能型居宅介護という高齢者福祉施設にて、ケアマネージャーの職務を遂行させて頂いております認知症大佐(仮称)と申します。そんな私が体験により会得した「三つの認知症対策」について、ご案内させて頂きます。

第一項:三つの認知症対策について

この度のコラムのテーマを「三つの認知症対策」とさせて頂きました。これは認知症の対策を大きく三つのカテゴリーに分類させて頂き、それぞれについて若しくはクロスオーバーさせながらご案内させて頂きます。そのカテゴリーは、以下の通りです。

1. 認知症を発症した方との「接し方対策」
2. 認知症を発症しない為の「予防対策」
3. 認知症を発症した時に「備える対策」

以上三つの認知症対策を知る事により、認知症を恐れず・嫌わず・明るく・前向きに捉えて頂けるものと念い、これより発信させて頂きます。
なお、本コラムの内容は私個人が「体験により会得したもの」ですので、医学的・統計学的なエビデンスに基づくものではありませんので、あしからずご了承のうえお付き合いの程お願い致します。

第二項:認知症の樹

認知症の樹

※拡大します

これは私がイメージする「認知症の樹」です。
地面から「認知症の幹」が伸びています。その先で、中核症状の大枝に分かれ、更にBPSD(周辺症状)の果実を結んでいます。
地面の下に目をやれば、原因疾患の根が張っています。土壌より原因疾患の根が環境因子を養分として吸収し、認知症の幹を太らせ、BPSD(周辺症状)の果実を育みます。
原因疾患が解かれば「どの様な土壌に変えれば、原因疾患の進行を抑制できるのか?」という、対策が打てます。

また客観的には、認知症の一番の困り事であるBPSD(周辺症状)の果実ばかりが目立って見えているのですが、その奥にある中核症状を知り適切な接し方を工夫する事により、BPSD(周辺症状)の果実を摘み取る事が出来ます。

認知症の樹を取り巻く外的環境も、BPSD(周辺症状)の育成に大きく影響します。
どんな風が吹き、どんな陽が当たり、どんな雨が降るのか?
どの様な人間関係を持ち、どの様な念いの人に囲まれて、どんな気持ちで過ごすのか?
「そこに愛はあるんか?」
BPSD(周辺症状)を多くの人が発症している施設もあれば、BPSD(周辺症状)が皆無に近い施設もあります。この違いを精査できれば、BPSD(周辺症状)の発症を予防する事も出来そうです。

第三項:ファミリートライアングル

ファミリートライアングル

これは係わりのある老人保健施設の施設長さんから教えてもらった図で「ファミリートライアングル」と言います。

認知症を発症した本人を、医療・福祉関係者と家族で支えあっている図です。
我々の様な医療・福祉関係者の家族(親御さんなど)が認知症を発症して、介護を必要となった時に陥りがちなのが「家族になりきれない」事なのです。医療・福祉の知識や技術を知っているが為に、その知識や技術を本人へ施してしまい、家族に徹する事が出来ないのです。

本人にとっては数少ない身近な家族なのに、家族としてでは無く医療・福祉関係者としての存在になってしまうのです。本コラムをお読みの医療・福祉関係者の皆様におかれましては、ご家族が認知症等を発症してケアが必要になった時には是非、医療・福祉の分野は専門職にお任せして「家族の役」に徹してください。

専門職の方が未熟であったりすると尚の事、手や口を出し勝ちですが「役を知り、役に徹し、役を超えない」事で、本人の役に立ってまいりましょう。専門職のスキルや技術だけではなく、家族の愛情や優しさ・思いやりといった関係性も負けず劣らず必要とされるものです。

第四項:ブーメランの法則とチャラの理論

ブーメランの法則とチャラの理論について、解説いたします。

これは「自分の身に起きている悪しき事は、以前に自分が誰かに為した悪しき事が、ブーメランの様に帰って来ただけの事。
自分の身に起きている悪しき事を甘んじて受け入れる事により、以前に自分が誰かに為した悪しき事が清算されてチャラになる」と云うものなのです。

また、このブーメランは世代を超えて帰ってくる事もあります。以前に自分が誰かに為した悪しき事が、子供や孫の代になって帰ってくる事もあるのです。しかも時間が経過する程に、利息が付き大きくなるのです。
善き事もまた同様なので「積善をしましょう」と言う事になる様です。 これを認知症対策に置き換えると、以下の通りとなります。接し方対策として。

身近に認知症を発症した方がいらっしゃる場合には「逆の立場になったならばどうして欲しいのか?」を判断基準に置きたいですね。
「して欲しい事を為してゆく」これはケアの場面に限った事ではなく「情は他人の為ならず」という諺に置き換えれば、日常の茶飯事として行いたいものです。身近な方へ為した行為が、自らが認知症を発症した時に、ブーメランとして帰って来ます。
「して欲しい事をさせて頂く」接し方対策が、自らが認知症を発症した時の「備える対策」をも兼ね備える事と成って行きます。

第五項:喜ぶ能力

これは私が親しくしている、ある高齢の方から教わった事なのです。曰く
「何も無しには喜べんとよ。喜ぶには能力が要る」
続きます。
「嬉しい事、楽しい事、良いなぁ~って思える事を積み重ねると、喜ぶ能力が高くなる」
だそうです。

これを聴いて私は「キララな事」という略語を創りました。「嬉しい」「楽しい」「良い」の漢字を音読みすると「キララ」と読めます。
嬉しい事+楽しい事+良いなぁ~って思える事=キララ(嬉楽良)な事。キララな事の基には「美味しい」が、あるそうです。そして「喜ぶ能力が高くなると、人を喜ばせたくなるとよ~っ」とも言われました。

そこで、接し方対策です。認知症を患った身近な方の「キララな事」を探してみましょう。
そしてキララな事を沢山施して、本人の喜ぶ能力を高めていきましょう。喜ぶ能力が高くなると、些細な事でも笑顔になれます。笑う門には福来る。笑うと免疫が向上します。ケアを通して喜ぶ能力を高められれば、きっと素敵な関係性を築けます。
また、自らのキララな事も探してみましょう。自らもキララな事を積み重ねて、喜ぶ能力を高めましょう。
人を喜ばせたくなる=認知症を患った身近な方を喜ばせたくなる
喜び合えるキララな時間を積み重ねる事で、予防対策となり、備える対策とも成って行く事でしょう。

そして、キララの基は「美味しい」です。
本人の好きなものを食べさせてあげたいですね。平均寿命以上に生きておられる方なら、多少の栄養の偏りは片目を瞑りましょう。私の経験則から言うと、好き嫌いを貫いている方が長生きしている気がします。

第六項:自歴表の勧め

自歴表

※拡大します

前項では認知症対策としてキララな事を探す事をご案内しておりましたが、その時に有効なツールとして「自歴表」をご紹介いたします。

これは私の自歴表なのですが、読んで字の如く、自らの年表です。生まれてから今までの人生を、個人・家庭人として振り返り、社会人・地域人として振り返る。その時々で自らに影響を及ぼした社会の出来事も、併せて綴ったものです。これを作ると、自らの人生の棚卸になります。ここにお見せしている私の自歴表の中には書いていないのですが、その時の念いも書き連ねてください。(ここが味噌)

その時、嬉しかった! 楽しかった!! とても良かった!!!
或いは、辛かった! 悲しかった!! 苦しかった!!!
自歴表を作り終えたら3分くらいの時間を使って、自分にとってのキララな事を思いつくままに書き出してみましょう。更に3分くらいの時間を使って、書き出したキララな事に優先順位をつけましょう。優先順位が付いたら上位3つを「私のキララ」と題して書き出してください。

これを毎日、目にする所に貼りましょう。昔の良かった事を思い出す時、脳はとても活性化されます。認知症の予防対策になりますし、自らが認知症を患った時には、ケアをしてくれる方々へ自らのキララな事を簡単にお伝えする事ができます。
そうすればケアスタッフがいつでも自らのキララな引き出しを開けてくれて、認知症を患っても心地良い日常を過ごす事が出来ます。

また、身近な方が認知症を患った時にはその方の自歴表を作成する事で、その方のキララな事を引き出す事が出来ます。キララな事が見つかれば、認知症の最大の困り事BPSD(周辺症状)の発症を防ぎ、穏やかな日常を創り出せます。

第七項:物忘れとの違い

認知症によく似たものに、物忘れがあります。認知症予防の為の「物忘れ外来」を診療されている医院が増えて来ているので「誤解されがちなのかな?」と思います。認知症と物忘れは、全く別物なのです。

私の好きな正月のイベントに、箱根駅伝があります。天下の険と謳われる箱根の山の背後には三国一の富士の山が控えています。この二つが重なる映像は、何とも雄大で美しさを感じます。見る角度によっては、富士山の中腹に箱根の山がある様に映ります。
しかし、観る角度を変えると、全く別の山である事は明白になります。認知症と物忘れは、富士山と箱根の山の様な関係で、一見すると物忘れの延長線上に認知症があるかの様に見える事もありますが、観点を変えると全く別物である事が解かります。

「第二項:認知症の樹」の所でお伝えした中核症状の失認が、物忘れの様に見えるのでしょう。失認は認知・認識する能力が失われている状態なので、覚える事が出来ません。
注)覚えないので、忘れる事もありませんし、思い出す事もありません。
食事が終わって間もなくに「ご飯は未だ?」と問われたとしましょう。「アレ? さっき食べたじゃない」との返答に対して、物忘れの方は「あぁっ! そうだったね!! アレ食べたね!!!」と、思い出してくれます。認知症(失認)の方は「自分達ばかり食べて、俺には食べさせんのか~っ!」と、怒り出してしまうかも…。

そんな時は「さっき食べた物も忘れたんかぁ~っ!」とやり返さないでください。忘れた訳ではなく、覚えていないんですから。そんな時は話題を変えて、食べ物から気を逸らせましょう。

第八項:疑似体験

私は平成29年11月8日(水)に、九死に一生を得る様な交通事故に遭遇しました。その時は倖いにも外傷だけでしたので、わずかな入院で事なきを得ました。しかしそれから2ヶ月余りが経過した平成30年1月下旬に、交通事故の後遺症で硬膜下血腫を発症しました。

その日は夕方に開催される或るイベントの主催チームの一員でしたので、早めに仕事を切り上げてJRにてイベント会場へ向かっていました。
JRの車中で書籍を読み始めたのですが、なかなか頭に入りません。文字は目で追えているものの、文章を理解する事が出来ないのです。音読を試みますが、今度は言葉が出てきません。失認と失語です。仕方が無いので車窓を眺めてイベント会場へ向かう事としました。

イベント前の打ち合わせの際に書記を依頼されましたので発言をとり始めたのですが、今度は視界の真ん中が見えなくなっていました。黄班変性です。視線をずらして書き留めるものの、意識しないと文字が小さくなってしまいます。これは低酸素脳症のご利用者様に診られた症状でした。これらの症状は間も無く消えて、元の状態に戻っていきました。
翌日は普段通り仕事をしていたのですが、午後になって左手の手首から先の皮膚感覚が無くなりました。

夜になって懇親会の席に行ったのですが、今度は平衡感覚が狂いヨロケル始末。念の為アルコールを抜いた私に臨席した先輩が心配そうに尋ねられたので、一連の症状をお伝えしたところ「明日朝一番で病院へ行くように!」と、ご指示を頂きました。朝一番はアポイントがあったので、朝二番に交通事故の際に救急搬送された病院へ行きました。

一連の症状を聞いたドクターは「そんな次々に症状が色々出てくる事等あるもんか!」といった反応でした。「念の為MRIを撮ってみましょう」と言う事になり検査を終えると、「こちらへお座りください」とナースが車椅子を差し出します。
結果「硬膜下血腫で左脳が押されて、脳幹を圧迫している」との事でした。その日のうちに頭から血を抜く手術が行われて、事なきを得ました。

この時の経験は障害の疑似体験となり、同様の訴えのあるご利用者様に対し、より親身に寄り添う事へとつながっています。
そういった観点より振り返ると、平成29年11月8日(水)の九死に一生を得る様な交通事故は、今の私に必要不可欠なものとなりました。

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