第5章 車の運転の話 第1節 何が運転を危険にしているのか、コレをチェック!3項・周囲の景色が不明になり、迷子になった感覚に
視空間認知機能を担っている頭頂葉
脳における周囲状況の認知と運動指標のナビゲーターに当たる立体空間画像を作っているところが、視空間認知機能を担っている頭頂葉という脳領域です。特に頭頂葉の頭頂間溝の領域にて網膜からの視覚情報と眼球、頭部、身体の位置運動情報が統合されます。
その結果、自分周囲の外界景色のモノの位置(自分の周りの地図ができ)や移動方向(モノの動きをとらえるレーダー画像ができ)が認知できます、そして興味の対象が何所にあって、どう動こうとしているかが分かるので、この頭頂葉に描かれた空間を含めた自己中心の立体空間画像から自分の次の動きが決まって、精密な運動指令としてその方向や距離、対象の動く方向についての情報を使った、的確な身体活動が導かれます。
その結果、ハンドルを回したり、ブレーキを踏んだり、アクセルを踏んだり、周りの車に合図を送ったり、歩いている人に注意をしたり、緊急車両の接近に備えたりができることになります。運動などでは、テニスや卓球では相手から出された球を目でとらえ、その軌道を時間的に送られる視覚情報から3次元空間で推測して、手に持ったラケットを動かす方向と速度を計算して、打点部位での手首の位置と手首の運動方向を決め、加えて自分のコートでの位置と運動方向と速度も計算に入れて、最終的なラケット運動を決めて上肢運動命令を出して、相手のボールを正確に動きながら打つという超技巧的運動ができます。
網膜映像情報と身体の状況
認知症ではこの頭頂葉の機能が障害され、視空間認知の機能が十分に働かない状態になります。その結果、外界景色を映すために目を動かしたが、新しく見えた外界景色が、自分に対してどちらの、どれだけ離れた景色なのか、直前に見えていた外界景色との連続性はどうなのかについて、まったく分らない状態になります。目の網膜映像情報とそれを映した目の位置、動き、頭部の位置、動き、身体の状況についての情報がうまく統合できず、自分に対してどこの映像、外界景色化わからない状態になります。さらに眼を動かすと、それで見えた外界景色はどこのモノか全く見当がつかなくなり、自分の周囲の世界が全く不明になり、迷子になった感覚になります。丁度、「アリスのままで」というアルツハイマー病の主人公が見慣れた大学構内でジョギング中にどこにいるのか分らなくなり不安な表情であたりを見回す、あのシーンと同様の感覚になります。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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