第4章 環境の話 第2節 社会環境1項・社会環境の変化により孤独高齢者が増加
変化した環境と日常会話の減少
近年、家庭環境が家族構成と家具や家電製品、通信手段で大きく変化したのに続いて、社会環境もそれと同様に大きく変化しました。この変化が認知症にとっても係わっています。
人口構成は、高齢化社会(総人口に占める65歳以上の人口割合:高齢化率が7%を超える 国連の定義)から高齢社会(高齢化率が14%を超える)となり、更に超高齢社会へと僅か十数年の間に目まぐるしく変化しました。
認知症との関わり合いから言えば、地域の近所付き合いが減少し、通信手段への参加が困難となり、日々の生活用品を購入する先が小売店からスーパーやコンビニへと変化し、同居人は家族から配偶者と2人か独りに減少(独り暮らしはこの30年間で2倍の14.5%)と、街並みも変化し、バス路線も変更するなど出掛ける手段が不明になり、家から出る機会が激減しています。これは一週間で一度しか他人と話さない高齢者が日本では15%で、他のドイツ8%、アメリカ6%、スエーデン5%を大きく引き離して、孤独高齢者が増えていることを裏付けています。
コミュニケーションの活性化は地域社会の活性化へ
他者との接触機会や会話減少はコミュニケーション不足が孤立、孤独を助長し、うつや不安障害、被害妄想をうみ認知症発症の可能性や認知症の進行をもたらします。孤独死が今なお見られている現状は、福祉国家として寂しい限りと思われます。お話し相手がいて、近所に買い物に出かけて顔なじみの方とお話が出来る、こういう地域社会を目指すことが大切と言えます。そして、これをどのようにして実現していくかを、真剣に考える時期が切迫していると思われます。将来にわたり、高齢者の外出とコミュニケーションを作る地域の仕組みを考えて、これからの社会を作っていくことは、経済と健康の両立を目指すことになっていきます。
高齢者の外出は、心肺機能の活動性を高め、筋のサルコペニアを予防するという身体健康とともに、孤独や孤立を減らし、不安やうつの防止に直結し、認知症発症と進行予防という精神健康になり、増加一方である高齢者の医療機関受診に歯止めをかけ、さらには減少へと向かい、地域や町の活気を取り戻し、明るい話し声の聞こえるセキュリティーの高い地域構築が出来ます。認知症はこのように地域社会の活性状況と密接にかかわっています。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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