第1章 症状の話 第1節 これも症状2項・急な感情の変化が現れる
認知症は「忘れる」「できない」だけではない
好きだった魚釣りに誘われたが、億劫な気がして行かない。先月は喜んで行ったのに。
怪魚ハンターの番組も録画しようとしないで床に就く。
何をするでもなく、終日椅子に坐ってテレビ画面を見続けて、時間時間で食事を口に運び、眠くなって床に就く日々を過ごしている。
よく見ていた野球放送を見なくなり、ひいきのチームの話をされても気乗りしない返答である。
誘われて、買い物に付き合っても品物をアレコレ見るわけでもなく、壁際におかれた椅子に坐って連れの買い物が終わるのを待っている。
町内会の寄合にいそいそと出かける夫に懐疑の念を抱き、そっと跡を付けていく。
一緒に行った買い物で、スーパーのレジの女性に夫との仲を疑って問いただす。
あんたのせいでこうなったのよと罵って、ついつい手が出てしまう。
腹が立ったら、真夜中でも相手を起こして煙草を買いにコンビニに走らせる。
家族と話していて、何気ない相手の言葉にカチンときて声を荒げて強く詰ってしまう。
食事でお代りをして、そんなに食べて大丈夫?と言われて腹が立って箸をテーブルに投げつけてしまう。
話の途中でいきなり怒り出したり、ちょっとしたことで怒る、すぐにへそを曲げる、ヒトをののしったり、感情をあらわに興奮してまくしたてるなど、急な感情の変化がみられる場合あるのです。
周囲の人の戸惑い
こうなると、周りにいた人達は驚きで戸惑ってしまいます。
何かいけないことを言ったのではないだろうか?傷つけるようなことを言ったのではないだろうか?何気なく知らず知らずに癇に障る態度を取っていたのだろうか?
思わず自分の言動を振り返って、思い当たる節が無いか時間を遡って辿ってみる。
だけど、どうも解せない、何を怒ったのだろう?何に腹を立てたのだろう?
普通ならこれで思い当たる事柄に出くわすのですが、身に覚えがなく分からないし、しばらく相手の話すことを聞いていても不明。
こういうの経験は、高齢者の方を相手にしたときに、きっと体験されていることと思います。実はこれも、認知症の始まりなのです。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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