第2章 対応の話 第1節 認知低下、どう対処したらよいのかの秘訣1項・物忘れ、話し方、興奮・怒りへの対応
物忘れの場合、同じ目線になることで不安を軽減させる
第一は、「相手の言うことを聞いてあげる」です。静かでじっくりと話が聞ける環境を用意して時間をとってしっかり聞いてあげることで、腰掛で聞いているのではない、真剣に聴いていますと言う姿勢が大切です。その姿勢が表情や言葉に表れますので、患者様は安心を覚え不安は軽減されて落着かれます。
方向としましては“安心させる、不安を軽減する”です。
そのためには、気持ちを同じにして(同じ目線)、一緒に行動してあげる(一緒に探したり、聞いて回ってあげる)、時々一休みを持ちかける(一服しませんか?等)、食べながらお話を聞いてあげる(気分転換を行う)。
話し方はゆっくりと言葉数を少なく単文で
認知症の方は、高齢でもあり聴覚機能の低下も見ていることが多く、やや大きな声に大きな身振り手振りを交えて、ゆっくり話し掛けます。認知症の方への言葉での対応については、その場の様子や相手の感情の状態で、臨機応変に対応を変える技が必要です。いくつかのよくある症状とその対応について上げていきます。
基本的には、話すことが“分かり易い”が大事なことになります。そのためには、ゆっくりとしたスピードで、言葉数を少なく単文で話します。と言いますのは、言語機能低下や情報処理速度が遅くなっておられるため、ゆっくりした入力速度で話すと十分に対処できるようになって、理解できるようになるからです。大きな声も大切ですが、それよりも脳機能の速度に合わせた速さで“ゆっくり話す”ことが分かってもらうには重要です。
方向としましては“ゆっくり話す”です。
そして、相手の言う事への確認も含めて“相手の言葉を繰り返してあげる”ことで、理解してもらって通じていると言う安心感が持てるからです。また、相手の気持ちを推察して「こうですか?」と代弁してあげることも良いことです。
興奮・怒りは治めようとせず、理解しようとする姿勢を
これは、何をどういう理由で感情的になっておられるのかを探り、理解することから始まります。そのためには、話していただく雰囲気を作る必要があります。
まずは接近の方法として、治めようと向かうのは、敵対と受け取られることが多いようです。どうしたの?と理解したいという気持ちでの接触が良いようです。
そうして、話し相手としての受け入れがなされると、理由についてもお話しして頂けますので、じっくり耳を傾けてお聞きしましょう。話を聴いてもらっていると感じられると味方と思われて、多くの事を話していただけます。本人は話しているだけで、味方を得たと思われ感情的に穏やかになってこられます。お聞きした情報から本人の気持ちを理解でき、その理由も分かりますので次への対応策を講じることができるようになり、要らぬ刺激をすることが減ります。
興奮や怒りの場面に遭遇したら、先ずは大きくうなずくジェスチャーをしながら、共感して一緒に気持ちを共有して、決して正論や論理的話で抑え込まないようにしましょう。
方向としましては“話を聴いて、味方になる”です。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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