第4章 環境の話 第1節 家庭環境2項・家電製品と認知症
家電製品の誤作動から起こる被害妄想
家庭の中を見回しますと、家電製品が目につきます。家電製品の進化は早く、高齢者の方々にとって、またこれから高齢者になっていかれる方々にとっても、この進化は厳しい生活器具となります。
高齢になりますと、見る、聞く機能が衰えます。そのため家電製品のコントローラーのリモコンは、ボタンが小さく、表示画面も文字も小さく見え辛い表示です。コマーシャルではないですが、小さすぎて読めないです。このため高齢者はボタンの間違いや、その押し間違いで、間違った操作をしてしまうことが増えます。夏にエアコンの暖房を点けてられ、冬に冷房を点けてられる高齢者の方は少なくありません。
そのために、脱水や熱中症、低体温症や風邪をひかれることになり、時として死に繋がる重大な過失になります。
認知症の高齢者では、そうした間違い、勘違いによる事故はもっと多く、死に至る可能性も増します。置き忘れが認知症では、日常になるとリモコン探しで時間が過ぎて、それによる家電製品の働きが宝の持ち腐れになり、とてつもない生活状況になってしまいます。さらに、認知症による心理として被害妄想が出やすくなり、意地悪されている、あれもこれも隠された、盗まれたとなってしまいます。そうした被害妄想の要因提供を簡単に引き起こす状況を作り出していきます。また、間違った機能のため誰かが悪さをしている、自分に危害を加えようとしていると、その被害妄想はエスカレートして介護者への怒り、暴言や暴力となってしまいます。
根気よく丁寧に会話をすることが大事
生活の快適さ、便利性を思って家族の方が、古くなったベッドや洗濯機や扇風機や切れなくなった包丁や俎板を新しいのを勧めても、「まだ使えるし勿体ない」と言って買い替えは不要と退けられたり、買ってあげたりとかプレゼントしてあげても、使わずに包装紙を解かないまま置きっぱなしになっていることもよくあります。使用に耐えかねたモノがゴロゴロ沢山あっても、慣れたモノとして不便で危険であっても使い続けてられるのは、認知機能低下と親しみや愛着からなのでしょう。この場合は、新しいものを勧めて変えていくのは、至難の業です。ですが、これは認知症の兆候として捉えられる事柄なのです。
この時は、最近こういうモノがあるよと言って、言い訳を聞きながら、そうだねと相槌を打ちながら、進めるモノを目の前で使って、説明してあげると「ふーん、そうかい」と関心を示されればシメタものです。毎日、繰り返して一緒に使って、家事をしてあげればOKです。仲良くなれますし、新しいものを使うことを覚えて頂けます。そして使い慣れるまで3か月くらいかかりますが、根気よく丁寧に付き合ってあげることが、危険性回避に繋がります。
認知症の尺度となる冷蔵庫
食品保存として冷蔵庫は、認知症の方の状態を見る要因が多くあります。先ずは入っている品物の種類と数です。同じ種類のというより同じ製品がいくつもありますと、買ったことを忘れて再購入されていることが、よく分かります。これは、家族の方や介護者の方がよく気が付かれます。
その次に食品の賞味期限が切れたものが、多く入っているのが認知症では見られます。よく報じられるように、驚くほどの以前のモノがあり、食べると危険な状態に陥る場合もあり要注意です。これには、賞味期限の期日の記載が小さく、読みにくいこともあります。高齢の認知症の方ですので、視力の問題と、読みとる時に、期日の記載が西暦で普段の年号と異なっているのが、混乱の原因にもなっています。これは、メーカー側の協力で大きく文字の色を統一して赤色のゴシックなどで表示していただけると、大変喜ばれると思います。
保存食品は賞味期限が長く、期日記載が先過ぎて安心感から、まだまだ大丈夫という変な信頼感で、期日オーバーで食べても大丈夫なように、高齢の方々は思い込んでられる場合も多いようです。今は西暦何年という認知ができていないと、期日の問題は危険な状態を招いてしまいます。したがって、認知症の方では食材においては、時間の認知が不良であるため、保存食品は極めて危険性が高いと、考えていただいたほうが宜しいと思います。
それと、好物のおやつなど、後に取っておいて頂こうと、仕舞っておかれることが多くあり、カビだらけの食品が戸棚や引き出しから見つかるケースもよくあり、絶えず彼方此方の隠し場所を見て回ることも必要です。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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