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株式会社ニック ニック 45周年

コラム

現役ケアマネのリレーコラム【第6回】

ケアマネージャーのホンネを毎月更新!

株式会社life遊 サンスマイル千種
浅野千都子さん

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高齢者の一人暮らしと家族 ~楽しみのある生活を過ごせるように~

はじめに

まず最初にケアマネリレーコラムの依頼を受けることになり初めにお伝えたいしたいと思ったことがあります。医療・福祉の仕事に携わり気づいたら15年を超えていました。ここまで続けることができたのは、周りのスタッフ、先輩、そして何よりご利用者様とご家族様のおかげだと日々強く感じています。このコラムの場をお借りして感謝の気持ちを伝えさせていただきます。皆様との温かいご縁のおかげです。ありがとうございます。

ところで、とにかく自分は思い出すと恥ずかしい失敗や先輩にお世話になった記憶の数々。最初のころは1人で右往左往し、さっぱりわからなかった中、ご利用者様の優しい笑顔と言葉に何度救われたでしょうか。今では、すっかり困難ケースといえば私が担当みたいなイメージになってしまったおばさんケアマネです。

早速ですが本題に入らせていただきます。印象強く残っている忘れられない事例について感じた問題や介護保険制度の今後について更によりよいサービス体制が整うことを願いお伝えしたいと思います。そして、新人ケアマネさんや一人で業務を行い相談ができない環境のケアマネさんにもご参考になれば幸いです。

今回の事例のテーマは

『独居で認知症になっている親を一人息子様または娘様がキーパーソン・そして遠方に住んでいる別居のケース・または同居のケースについて』

認知症で独居の方は、サービスを利用することを拒否され、病院も受診できていません。また、入浴や食事も半年以上まともにできていないことが多いです。
「物を盗まれる」「誰かが家にいる」などの幻視もあり、家の中に訪問させていただくことも簡単にはいかないことが多いです。常に泥棒が来るかもしれないという不安や恐怖で過ごしているため、家中に鍵をつけて鍵をなくされ、また鍵を作る、そして窓やドアの隙間に頑丈にガムテープを張って誰も入れないようにしていないと不安な方などお見えになります。

徘徊や意味不明な行動、発言によって近所の方や民生委員の人から通報で息子さんや娘さんに伝わるというパターンが多い状況です。周囲からは意味不明と思われますが本人にはちゃんと理由や意味があります。そんな状況を何度も目の当たりにしてきました。

昨年夏の出来事

新規の依頼が何件か連続で重っていました。そのような中自分の受け持っていたご利用者様(認知症)90代の女性の方を次女様が同居し、一人で介護されていました。
要支援の方で定期的に訪問、毎月の電話など連絡をしていましたが、ある日深夜に(夜中の2時頃)二回ほど長女様から電話が鳴っていました。(後ほど着信履歴で判明)

朝一番で娘様に折り返しの電話をすると、いつもよりテンションの高い声で「アプリを押そうとして間違えただけなので大丈夫です」と話されます。しかし、いつもと違う話し方に違和感もあり、もう一度「何かあったのですか?大丈夫ですか?」と聞くものの同じことを言われ、あまりしつこくするのも負担になるかなと感じ、電話を切らせていただきました。

その数日後、デイサービスの職員から電話が入り、「朝お迎えにいったのですが、ご本人はベッドで横になっていてその横で娘様が亡くなられている。鍵が開かないので近所の長女さんにあけてもらった!」と動揺し説明もよく伝わりにくい状況でした。電話の横におられた長女様が電話を代り「とにかく落ち着いたら連絡します」と話され電話を切ったのです。

その後、警察の司法解剖にて私に電話をした日の朝に亡くなっていたこと、お母さまの寝てみえたベッド周辺に娘様のメモで「もう限界です、私を楽にさせてください」と何枚も書いておいてあったことを長女様から教えていただきました。ご本人様は救急車で病院へ搬送され、治療中とのことでした。今後の支援について相談するため長女宅へ伺うと…。
「次女の妹はとても頭がよく優秀だった、なんでも自分でこなしてしまう妹で母のことも妹に任せたままでした。時々顔をみにいくと、『私がやるから大丈夫』と拒絶されるのでなかなか生活の様子を把握することができなかったです。しかし、今回のことで家の中のものを整理し、掃除などしていたらとても質素な生活、通帳もほとんど引き出しをしないでかなりの金額が貯まっていました。妹は母のために何もほしいものも買わずに節約していたとわかりました。昔からあまり姉妹の仲も良好ではなかったため、介入しづらかった」と話されていました。

周りには愚痴もこぼさず淡々と物事をこなされており、介護と買い物以外はほぼ親子二人きりでした。(少しうつ症状もあり早くから仕事はやめていた様子)私が生前自宅に訪問していた際には、介護のことで時々愚痴やコロナの話題で心配だと話されたり、自分の体調不良について訴えて下さる時もあったので、長女様からの話は、複雑な心境で傾聴していました。
その後、時間が経ち、救急搬送されたお母さまも体調回復し転院され、施設入所となっていったのですが…時間がたてば経つほどに私の心は重く、ふと思い出すたびに色々なことを考えてしまうようになっていました。
今後一人で介護されている息子様や娘様には今まで以上に支援、負担軽減など敏速に動けるようにしたい。介護の大変さは人それぞれ感じ方もつらさも違います。「大丈夫です」と家族が応じられても本当は限界かもしれないと疑問をもつことも大切だと強く思うようになりました。

独居の親の介護相談

新規の依頼がくる際、一人息子さんや娘さんが独居の親の介護をしていくことになったので相談に乗ってほしいとのケースが多くなっています。この様なケースは少子高齢化の日本で今後増加していくことだというのは十分認識していますが、高齢の親が一人暮らしで子供さんが結婚や仕事の都合により転勤など遠方で離れている場合、普段の生活や状況はなかなか把握できません。
近所からの通報や連絡でお子さんが親の異変に気付き、遠方からかけつけた時には病院受診もしていない、食事、入浴は半年以上できていない、自宅内は散乱し、ゴミの山という状況です。

病院や介護サービスへの強い拒否などもあります。どうしていいのかわからない時にまず相談の窓口として各区にある地域の包括支援センターが救世主となるのですが、その存在も若い働き盛りの人たちには中々知られていないのが現状です。
包括支援センターから依頼をうけたケアマネジャーは包括支援センターの担当者と連携・相談し、介護サービスの調整や病院受診などの対応と様々な問題を確認しながら支援をしています。

そもそも認知症の方は病院受診もできていない状態のため、まずは予約をして紹介状をもって本人が診察を受けるのですが、近隣に認知症専門の医師はなかなかいません。検査、長い待ち時間などに診察の拒否、治療がなかなかスムーズにはいきません。
初回の診察で認知症の親を家族が連れていくまで、外へ連れ出すまでなかなか本人に病気の認識がないため納得できない状態です。買い物に行くなどごまかして連れていかなければならないこともあります。

幸いにも病院受診にたどり着いても、日々の生活状況がわからないので、今度はあらゆる検査が必要になります。診察や検査の時、認知症の方の様子など知識の豊富な先生がもっと増えることで家族や本人の精神的な負担軽減も図れると思います。地域のなじみの場所に認知症専門の医師がいないと検査ができない為、遠方へタクシーで行かなければならず時間や金銭的負担もかかっています。

緊急で施設へ保護してもらうとき

一人で徘徊してしまい事故やケガ、近所の苦情などで緊急で施設へ保護してもらうときにやはり、家族が遠方で一緒に住んでいないと身元引受や緊急時のかけつけなど対応してもらうのが困難で自費サービスの保証人の契約が必要になってきます。
かなり高額なため家族の経済的負担も大きいです。同居していない場合で県外にお子さんがいるというケースが多く、親戚とも疎遠となっていると頼れる人もいません。お子さんの生活、仕事にも支障がでてきてしまいます。身元保証や緊急時の駆けつけ支援などお値打ちで敏速に動いていただける民間の事業所を探し紹介しています。

同時に成年後見人の申請も進めています。後見人の手続きも書類と面談などかなり手続きが困難でご家族様に理解していただきながら必要な支援を行っています。この部分も役所や地域の資源で対応し、一般の方に分かりやすく、簡潔な書類など工夫していただけることが今後の課題だと思います。役所にチラシなどありますが、まだまだ知られていない制度だと痛感しています。

①後見人の申請や緊急時の駆けつけ支援など金銭的な負担の軽減
②施設への受け入れが難しく在宅で困っている方に低額で支援し、スムーズに入居できるような体制も整えていく
といったことが重要だと思います。

施設への入所の際にも診断書、紹介状、契約、生活必需品の準備など、やらなければならないことが大変多いです。また、資産、家屋、通帳の管理など同時に成年後見の申請と手続きをしていると施設の入所、介護サービスの利用までに様々な問題をクリアしなければなりません。一人息子さんや娘さんが仕事をしながら、有休をとり遠方から駆けつけてみえます。必要に応じて電話や面談、郵送などで対応し、サービスについて意向を相談しながら支援していきます。

その時に、最初に述べた夏に亡くなられた娘様のことが脳裏をよぎります。
精神面での負担から健康を崩されてしまわないように配慮しながら支援をしていきたいと思っていますが、ケアマネジャー一人ではなく様々な専門職の方がチームで連携し負担軽減できるような体制が整うことで敏速な支援ができるのではないかと思います。
名古屋市の負担軽減の制度で、福祉給付金、限度額認定証、医療、介護の料金負担を軽減してくれる制度があります。そのような手続きも説明し申請していただくように話しています。介護保険、医療保険、施設の種類、介護の料金の仕組みなどご家族やご本人は理解するのに時間もかかってしまうことも多いです。しっかり理解できるまで説明をしていくと1時間以上はかかります。その間に腰痛や痛みのある方は最後まで話を聞くことも困難です。時間を分けて何度も繰り返しわかりやすく説明しています。

制度についての説明と利用しやすいシステムの工夫も必要だと感じています。それぞれの書類の署名、捺印、介護サービスの契約、様々な資料の説明ももう少し簡素化するべきだと思います。すべてに同意の署名をしてもらうと更に時間がかかってしまうこと、加齢により目や耳、手が不自由な方に理解し納得して記入していただくために、シンプルでわかりやすい文章と文字のサイズなど工夫していくこともできるのではないかと思います。

お客様の声

お客様の生の声で、アンケートに協力をしていただきました。

・いきいき支援センターやケアマネジャーの存在を知らないので、どうしたらいいか困っていました。友人にたまたま聞いて知ることができましたが、友人が経験していなかったら困り果てていたと思います。
・介護のサービスや成年後見の申請は難しくてわかりにくい。
・もっと簡潔でわかりやすくしてほしい。
・病院が近くにないので通院が大変です。
・介護保険料の料金が安いのか高いのか?よくわからない。

などのお声をいただきました。一緒に相談しながら、様々なサービスを利用していくことで私達専門職が忘れてしまっていることもあり、当たり前のことが当たり前ではないと日々意識することも大切だと思うようになりました。
一人暮らしの方にお子さんが一人で介護や生活の面倒をみておられる数名の方たちに少しでも不安を軽減し、不安なく楽しみのある生活を過ごせるように支援を続けていきたいと思います。

現在は施設に入り無事体調も安定し穏やかに過ごせているご利用者様、在宅でヘルパーさん、訪問診療、訪問入浴などの支援をうけ自宅で過ごされているご利用者様、毎月のモニタリングで訪問すると笑顔で会話し、娘さんや息子さんも仕事に行かれ以前のような生活ができるようになっているとホッとします。

私自身も振り返ると、話すタイミング、各事業所の方との密な連携、経験値が増えてきたことで迷いなく迅速にやれるようにはなりましたが、一人ひとりの想いやその人らしさを応援することはまだまだ不十分で、本当にご利用者様やご家族様には感謝しかありません。未熟な私が経験を積み成長できたのは私を信頼し、誰にも話せないような想いを教えていただき、拙い説明でも一緒に動いてくださったおかげです。

最後に

浅野千都子さん

今回は、このようなケースをコラムで書きましたが実は、困難ケースで暴言やクレームの多い方もおられます。(事業所さんから拒否され誰もサービスにかかわりたくないというケースもあります)そのような時間やエネルギーの必要な方も経験だと今では感じております。また機会があれば困難ケースもお伝えできればと思います。

では、拙い文章でしたが最後まで読んでいただきありがとうございます。
これからも介護の世界で頑張りましょう。

モネ
モネ

浅野さんが名刺に掲載している絵です。「介護を受けられる方々や介護をする方に、癒されホッとするような空間や時間を持ってほしい」という想いが込められています。
※モネのイラストの為、パブリック・ドメインです。

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