第5章 車の運転の話 第1節 何が運転を危険にしているのか、コレをチェック!4項・車の運転が危険になる頭頂葉機能障害
恐ろしい頭頂葉の視空間認知機能障害
自分の周囲の空間を含めた地図、自分の身体の地図も怪しくなってしまいます。どちらに向かえば何があるのかも見当がつかず、途方に暮れる状況で混乱状態です。車の運転では、方向が分らなくなって道路が分らず、右に曲がるのはどちらにハンドルを回すのか、駐車場から出る時どちらの方向に行くのが良いのか、こっちと思っていて進むと逆方向だったり、運転席の操作で足元とペダルの位置はこちらと思っていたのが逆だったり、レバー操作が全く逆に動かしたりと色んな方向、見当の間違いが起こってきます。頭頂葉の視空間認知機能障害はこの様に恐ろしい行動の結果につながります。
この様に、感覚、運動の地図やナビゲーターが誤った不良な情報を提供して、視空間認知や身体認知の異常、運動や行動の異常を引き起すといったことが症状として現れます。
この重要な機能を有する頭頂葉が障害されてくるのが、認知症です。アルツハイマー病では病初期から神経細胞の変性が起こり、記憶の障害と共に症状として現れます。そのため、記憶の障害に視空間認知機能の障害が加わりますと、場所に関しての認知が壊れて行動の異常や感覚の異常として症状をみます。すなわち、見当識障害、迷子、車の運転異常、計算の位取りが出来ない、ネクタイがうまく結べない、紐が結び難い、漢字やカタカナ、ひらがながうまく書けない、衣類がうまく着られない、モノの書き写しが苦手になる、アナログ時計の時間がよく分らないなどの症状が出てきます。
車の異常運転は認知症の頭頂葉機能の低下が関係
そういうことで、認知症になると頭頂葉機能障害が起る結果、車の運転が危険になって事故に結びつくことになります。危険運転の謎はこの様にして生じてきます。この視空間認知機能を評価する方法はあるのでしょうか? 実は、こうした眼球運動と視空間位置情報、ワーキングメモリーを組合わせた評価方法があります。パソコンを使用する方法で、言語によらない客観的な方法ですので、再現性があり、所要時間も短く、ゲーム感覚で簡単にできます。これは、認知症の評価の一つと考えることもできますが、頭頂葉機能、ワーキングメモリーの前頭葉機能の評価とも考えられます。このことは、各脳機能のわずかな障害の機能低下でも、敏感に結果となって現れます。従って、脳画像の変化として見られる前に、機能低下を捉えられます。
車の異常運転で言えば、認知症でなくても、視空間認知機能がうまくない方ではこのテストでは評価低下として結果が出ます。方向音痴の方などがそうであるように、ワーキングメモリーのよくない方では低評価の結果が出ます。これらは、車を運転する上での、確認物が多い中での運転の危険性を知らせてくれていますので、運転は控えめの方がよいと思われます。
話がそれましたが、車の異常運転は認知症の頭頂葉機能の低下が関係していることがお分かり頂けたかと存じます。その為、運転免許証の返納は大事で正しい行動ですと言えます。
占部 新治(うらべ しんじ)
- 経歴
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- 1976年
- 北海道大学 医学部 医学科卒業
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1980年
- 北海道大学 大学院 医学研究科生理系修了 医学博士
- 1981年
- 北海道大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 助教授
(現:北海道大学 医学部 保健学科)
- 1995年
- 札幌医科大学 精神医学講座 講師 外来医長
- 1999年
- 札幌医科大学 保健医療学部 作業療法学科 教授
- 2001年
- 札幌医科大学 大学院 保健医療科学研究院 教授
- 2007年
- 北海道大学 大学院 保健科学研究院 教授
- 2011年
- 京都 三幸会 北山病院 副院長
- 2013年
- 京都 三幸会 第二北山病院 副院長 現在に至る
- 専攻領域
- 精神医学、 神経科学、 リハビリテーション医学
- 主な著訳書
- 日経サイエンス「 運動の脳内機構」 E.V.Everts著
- 主な著書
- 臨床精神医学講座 S9 アルツハイマー病(中山書店)、精神医学 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野(医学書院)、「学生のための精神医学」(医歯薬出版)
- 所属学会
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- 精神神経学会 専門医、専門指導医
- 老年精神医学会専門医、専門指導医
- 認知症学会専門医、指導医
- リハビリテーション医学会 臨床認定医
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